企業価値と資金調達の関係とは?評価方法や調達額への影響を詳しく解説
2026年9月1日
企業が事業を成長させるためには、設備投資や人材採用、商品開発、広告宣伝などに必要な資金を確保することが欠かせません。特にスタートアップや成長企業では、現在の売上だけでは事業拡大に必要な資金をまかなえず、外部から資金調達を行うケースも多くあります。
資金調達を検討する際に重要になるのが「企業価値」です。特に投資家から出資を受けるエクイティファイナンスでは、企業価値をいくらと評価するかによって、同じ金額を調達した場合でも投資家に渡す株式の割合が変わります。
たとえば、企業価値が5億円と評価された会社が1億円を調達する場合と、企業価値が10億円と評価された会社が同じ1億円を調達する場合では、投資家が取得する株式の割合は大きく異なります。つまり、企業価値は資金調達額だけでなく、創業者や既存株主の持株比率にも影響する重要な要素です。
一方で、企業価値は単純に売上や利益だけで決まるものではありません。企業の成長性、市場規模、ビジネスモデル、保有する技術や知的財産、顧客基盤、将来の収益性など、さまざまな要素をもとに評価されます。
この記事では、企業価値の基本から資金調達との関係、企業価値の評価方法、調達額と希薄化の考え方、企業価値を高める方法、資金調達時の注意点まで詳しく解説します。
企業価値とは何か
企業価値とは、簡単にいうと「企業そのものがどの程度の価値を持っているのか」を表す考え方です。
企業価値という言葉は幅広い意味で使われますが、資金調達の場面では、投資家がその会社にどの程度の価値があると評価するのかという観点が特に重要になります。
上場企業であれば株式市場における株価をもとに時価総額を算出できますが、非上場企業、特に創業間もないスタートアップには市場で形成された株価がありません。
そのため、資金調達を行う際には、事業計画や市場規模、売上、利益、成長率などをもとに、投資家と企業の間で企業価値を評価する必要があります。
企業価値が高く評価されれば、同じ金額を資金調達する場合でも、投資家に渡す株式の割合を抑えられる可能性があります。
反対に、企業価値が低く評価されると、必要な資金を調達するためにより多くの株式を発行する必要が生じ、既存株主の希薄化が大きくなる可能性があります。
企業価値と資金調達にはどのような関係があるのか
企業価値と資金調達は密接に関係しています。
特に株式を発行して資金を調達するエクイティファイナンスでは、企業価値が投資家に渡す株式の割合を決める重要な要素になります。
たとえば、資金調達前の企業価値が4億円の会社が、投資家から1億円の出資を受けるとします。
単純化して考えると、資金調達後の企業価値は5億円となり、投資家は5億円のうち1億円に相当する20%程度の株式を取得することになります。
一方、資金調達前の企業価値が9億円の会社が同じ1億円を調達した場合、資金調達後の企業価値は10億円となり、投資家が取得する割合は10%程度になります。
つまり、同じ1億円を調達しても、資金調達前の企業価値によって既存株主の希薄化率が変わります。
このため、スタートアップが資金調達を行う場合には、単に「いくら調達するか」だけではなく、「自社がいくらの企業価値で評価されるか」も非常に重要になります。
資金調達で使われるプレマネーとポストマネーとは
企業価値と資金調達を理解するうえで重要なのが「プレマネー」と「ポストマネー」です。
プレマネーバリュエーションとは、資金調達を行う前の企業価値を指します。
一方、ポストマネーバリュエーションは、資金調達によって調達した資金を加えた後の企業価値を指します。
たとえば、資金調達前の企業価値が5億円で、投資家から1億円を調達するとします。
この場合、単純化するとプレマネーが5億円、調達額が1億円、ポストマネーが6億円となります。
投資家が1億円を出資する場合、ポストマネーを基準にすると、投資家の持株比率は約16.7%となります。
このように、資金調達における株式の割合を考えるときには、プレマネーとポストマネーのどちらを基準としているのかを確認することが重要です。
特に投資家との交渉では、企業価値の数字だけを見るのではなく、「その企業価値が資金調達前なのか、調達後なのか」を確認する必要があります。
企業価値の算出方法
企業価値の評価方法にはさまざまな種類があります。
非上場企業やスタートアップでは、会社の状況や事業の特徴に応じて複数の方法を組み合わせて評価することがあります。
代表的な方法として、インカムアプローチ、マーケットアプローチ、コストアプローチなどがあります。
どの方法が適しているかは企業によって異なります。
たとえば、将来的なキャッシュフローが見込める企業であれば将来の収益を基準に評価する方法が使われることがあります。一方、同業他社の企業価値や売上倍率などを参考にして評価するケースもあります。
スタートアップの場合は、現在の利益が少ないことも多いため、将来の成長性や市場規模などを含めて評価されることがあります。
インカムアプローチによる企業価値評価
インカムアプローチとは、企業が将来生み出すと予想される収益やキャッシュフローなどをもとに企業価値を評価する方法です。
代表的な方法としてDCF法があります。
DCF法では、将来のフリーキャッシュフローなどを予測し、それを現在価値に割り引いて企業価値を算出します。
将来的に大きなキャッシュフローを生み出すことが期待される企業では、現在の利益だけを見るよりも事業の将来性を評価に反映しやすいという特徴があります。
ただし、将来の売上や利益をどのように予測するかによって結果が大きく変わります。
特に創業間もないスタートアップでは、過去の実績が少なく、将来予測の不確実性も高くなります。そのため、DCF法だけで企業価値を決めるのではなく、他の評価方法と組み合わせることがあります。
マーケットアプローチによる企業価値評価
マーケットアプローチは、類似する企業や過去のM&A、資金調達事例などを参考にして企業価値を評価する方法です。
たとえば、同じ業界で事業内容や企業規模が近い企業の売上高や利益、企業価値などを参考にして、自社の企業価値を推定します。
スタートアップでは、売上高に対する企業価値の倍率などを参考にするケースもあります。
ただし、企業ごとに成長率や事業モデル、顧客基盤、競争優位性などが異なるため、単純に他社の倍率を当てはめれば正確な企業価値が算出できるわけではありません。
自社と比較対象企業との違いを考慮しながら評価する必要があります。
コストアプローチによる企業価値評価
コストアプローチは、企業が保有している資産などをもとに価値を評価する方法です。
企業が保有する現預金、不動産、設備などの資産から負債を差し引くことで、企業の純資産を算出し、それを企業価値評価の参考にします。
資産を多く保有する企業では有効な方法の一つですが、スタートアップの場合には注意が必要です。
スタートアップは、将来性の高い技術やブランド、顧客基盤、ソフトウェアなどを持っていても、貸借対照表上の資産価値だけでは十分に評価できない場合があります。
そのため、資金調達における企業価値評価では、コストアプローチだけではなく、将来性や市場環境なども考慮することが重要です。
スタートアップの企業価値は何で決まるのか
スタートアップの企業価値は、現在の売上や利益だけでは決まりません。
むしろ、創業初期では売上がほとんどないケースもあるため、将来的にどれだけ大きな事業へ成長する可能性があるかが重要になります。
投資家が評価する要素としては、市場規模、事業モデル、成長率、競争優位性、経営チーム、顧客数、継続率、プロダクトの独自性などが挙げられます。
たとえば、現在の売上が1,000万円しかないスタートアップでも、巨大な市場を対象にしており、急速に顧客数を増やしている場合には、高い企業価値が付く可能性があります。
一方、現在の売上が大きくても、市場の成長性が低かったり、競合との差別化が難しかったりすれば、必ずしも高い企業価値になるとは限りません。
つまり、企業価値は「現在の会社の大きさ」だけでなく、「将来どの程度の価値を生み出せるのか」という期待も含めて評価されます。
資金調達額はどのように決めるのか
資金調達を行う際には、必要な資金額を明確にすることが重要です。
資金調達額を決めるときは、単に現在不足している金額を調達するのではなく、次の資金調達までに必要な資金を考えることが一般的です。
たとえば、今後12か月間の人件費、開発費、広告費、オフィス費用などを計算し、売上による入金予定額を差し引いて必要な資金を算出します。
スタートアップの場合、資金調達後に一定の成果を出して企業価値を高め、次のラウンドで追加資金を調達するという成長戦略を取ることがあります。
そのため、資金調達額は「何となく多めに調達する」のではなく、事業計画と資金繰りをもとに設定することが重要です。
企業価値と株式の希薄化の関係
企業価値は、既存株主の株式がどの程度希薄化するかにも大きく関係します。
たとえば、資金調達前の企業価値が4億円の会社が1億円を調達すると、単純化すると投資家の持株比率は20%程度になります。
一方、資金調達前の企業価値が9億円であれば、同じ1億円を調達しても投資家の持株比率は10%程度です。
つまり、企業価値が高く評価されるほど、同じ金額を調達する場合に必要となる株式の割合を抑えられる可能性があります。
これは創業者や既存株主にとって非常に重要なポイントです。
ただし、企業価値を高く設定すれば必ず良いというわけではありません。実態とかけ離れた高い企業価値で資金調達すると、次回の資金調達時に評価額を維持できず、いわゆるダウンラウンドにつながる可能性があります。
そのため、短期的に希薄化を抑えることだけではなく、将来的にも説明可能な企業価値で資金調達することが重要です。
資金調達における企業価値の交渉
非上場企業の資金調達では、企業価値が市場で自動的に決まるわけではありません。
そのため、企業側と投資家との間で企業価値について交渉することがあります。
企業側は、自社の成長性や市場規模、顧客数、売上成長率、競争優位性などを説明し、適切な企業価値を提示します。
一方、投資家は事業のリスクや市場環境、競合状況、将来の成長可能性などを分析したうえで、投資条件を検討します。
最終的な企業価値は、こうした双方の交渉によって決まることがあります。
資金調達を有利に進めるためには、企業価値を高く見せるだけではなく、第三者から見ても納得できる根拠を用意することが重要です。
企業価値を高めるためにできること
資金調達を検討している企業にとって、企業価値を高めることは重要なテーマです。
企業価値を高める方法は事業によって異なりますが、基本的には将来の収益力や成長性を高めることが重要です。
たとえば、顧客数を増やすだけでなく、顧客が継続して利用する仕組みを構築することが考えられます。
また、売上を伸ばすだけではなく、利益率を改善したり、業務効率化によってコストを抑えたりすることも企業価値の向上につながる可能性があります。
さらに、競合他社にはない技術やノウハウ、ブランド、顧客基盤などを構築することも重要です。
特にスタートアップでは、「この会社だからこそ成長できる理由」を明確にすることが企業価値の評価に影響する場合があります。
企業価値を高めるために売上以外も重要
企業価値を高めるというと、売上を増やすことだけを考えてしまうかもしれません。
しかし、投資家から評価される要素は売上だけではありません。
たとえば、サブスクリプション型のサービスであれば、顧客数だけでなく解約率や継続率も重要になります。
また、顧客獲得コストが低く、効率的に新規顧客を増やせる事業であれば、将来的な成長性が評価される可能性があります。
さらに、特許や独自技術、強力なブランド、他社が簡単には構築できないネットワークなども競争優位性につながります。
企業価値を高めるには、単純な売上規模だけでなく、「将来にわたって利益を生み出せる仕組み」を作ることが重要です。
企業価値と資金調達のタイミング
資金調達では、いつ調達するかも重要です。
資金が完全になくなってから資金調達を始めると、投資家との交渉に十分な時間をかけられない可能性があります。
また、事業の業績が悪化してから資金調達を行うと、企業価値を低く評価される可能性もあります。
一方、事業が順調に成長している段階で資金調達を行えば、成長実績をもとに企業価値を説明しやすくなる場合があります。
そのため、資金調達では「お金がなくなったから調達する」のではなく、今後の事業計画をもとに余裕を持って準備することが重要です。
企業価値と資金調達方法の選び方
資金調達には、エクイティファイナンスだけでなく、銀行融資、政府系金融機関からの融資、ビジネスローン、補助金・助成金などさまざまな方法があります。
エクイティファイナンスでは株式を発行するため、企業価値と希薄化が重要になります。
一方、融資では株式を渡す必要がないため、基本的には既存株主の持株比率には影響しません。ただし、元金と利息を返済する必要があります。
補助金や助成金は、条件を満たせば返済不要となる制度がありますが、利用できる事業や経費、申請時期などに制限があります。
どの方法が最適かは、企業の成長段階や資金使途、返済能力、今後の資本政策などによって異なります。
企業価値が低い状態で資金調達するとどうなるのか
企業価値が低く評価された状態でエクイティファイナンスを行うと、同じ金額を調達する場合でも、投資家に渡す株式の割合が大きくなる可能性があります。
たとえば、資金調達前の企業価値が2億円で1億円を調達すると、単純化すると投資家が約33.3%の株式を取得することになります。
資金調達前の企業価値が9億円で同じ1億円を調達する場合と比較すると、既存株主の希薄化率は大きく異なります。
ただし、企業価値を低く評価されることが必ずしも悪いとは限りません。
重要なのは、その企業価値で調達した資金を使って、次の成長ステージへ進めるかどうかです。
資金調達後に企業価値を大きく高められるのであれば、一定の希薄化を受け入れてでも資金を調達する意味があります。
企業価値を高く設定しすぎるリスク
資金調達では「できるだけ高い企業価値で評価してもらいたい」と考えるのが自然ですが、高すぎる評価にもリスクがあります。
企業価値が実際の事業成長に対して過度に高く設定されると、次回の資金調達時に投資家から同じ評価を受けられない可能性があります。
前回の資金調達より低い企業価値で次の資金調達を行うことになれば、ダウンラウンドとなる可能性があります。
ダウンラウンドでは、既存株主の持株価値や投資家との関係に影響が生じることがあります。
そのため、資金調達時には目先の希薄化を抑えることだけを考えるのではなく、次の資金調達や事業成長まで見据えて、現実的な企業価値を設定することが重要です。
資金調達前に企業価値を説明できる資料を準備する
投資家から適切な企業価値評価を受けるためには、自社の強みを客観的に説明できる資料を準備しておくことが重要です。
事業計画書には、市場規模、ターゲット顧客、競合企業、自社の強み、売上計画、利益計画、資金使途などを具体的に記載します。
さらに、すでに事業を開始している場合は、売上成長率、顧客数、契約件数、継続率など、事業の成長を示すデータを整理しておきましょう。
投資家は将来の可能性だけでなく、これまでどのような成果を出してきたのかも確認します。
数字によって事業の成長性を説明できれば、企業価値の根拠を示しやすくなります。
資金調達後の企業価値を意識することも重要
資金調達では、調達した瞬間の企業価値だけでなく、資金調達後に企業価値をどこまで高めるかを考える必要があります。
たとえば、1億円を調達した場合、その資金をどのように使えば会社の成長につながるのかを具体的に計画します。
人材採用に使うのであれば、採用によってどのような事業成果を目指すのかを考えます。
開発資金として使うのであれば、どのようなプロダクトを完成させ、どの程度の顧客を獲得するのかを明確にします。
マーケティング費用に使うのであれば、広告費に対する売上や顧客獲得数などの目標を設定します。
このように、資金調達を「お金を集めること」で終わらせず、「企業価値を高めるための資金を確保すること」と考えることが重要です。
企業価値と資金調達に関するよくある質問
企業価値が高いと資金調達で有利ですか
一般的には、企業価値が高く評価されるほど、同じ金額を調達する場合に投資家へ渡す株式の割合を抑えられる可能性があります。
ただし、企業価値が高ければ必ず資金調達に成功するわけではありません。事業計画や市場の成長性、経営チームなどについて投資家から納得を得る必要があります。
また、実態とかけ離れた企業価値を設定すると、将来の資金調達で問題になる可能性があります。
企業価値と時価総額は同じですか
企業価値と時価総額は、厳密には同じ意味ではありません。
時価総額は基本的に株価に発行済株式数を掛けて算出される株主価値を表します。一方、企業価値は事業そのものの価値を評価する考え方で、財務上の定義によっては有利子負債なども考慮します。
非上場企業の資金調達では、株式市場で形成された株価がないため、企業価値を投資家と交渉して決めることがあります。
企業価値を高めれば希薄化を抑えられますか
企業価値が高く評価されれば、同じ金額を調達する場合でも投資家に渡す株式の割合を抑えられる可能性があります。
ただし、企業価値は自由に設定できるものではありません。
売上や利益、顧客数、市場規模、成長率、競争優位性などをもとに、投資家が納得できる根拠を示す必要があります。
資金調達では企業価値と調達額のどちらが重要ですか
どちらも重要です。
調達額が不足すると事業計画を実行できない可能性がありますが、調達額を大きくしすぎると希薄化が大きくなる可能性があります。
そのため、必要な資金額を明確にしたうえで、企業価値と調達額のバランスを考えることが重要です。
まとめ
企業価値と資金調達は、特にスタートアップや非上場企業にとって非常に重要な関係があります。
株式を発行して資金を調達するエクイティファイナンスでは、資金調達前の企業価値であるプレマネーバリュエーションが、既存株主の希薄化に大きく関係します。同じ1億円を調達する場合でも、企業価値が高ければ投資家に渡す株式の割合を抑えられる可能性があります。
一方で、企業価値は高ければ高いほど良いわけではありません。実際の事業成長とかけ離れた評価額で資金調達を行うと、次回の資金調達で評価額を維持できず、ダウンラウンドにつながる可能性があります。
そのため、資金調達では「どれだけ高い企業価値を付けるか」だけではなく、現在の事業実績や市場規模、成長率、競争優位性などをもとに、将来の成長を見据えた適切な企業価値を設定することが重要です。
また、企業価値を高めるには、売上を増やすだけでなく、顧客基盤を強化したり、継続率を高めたり、独自技術やブランドなどの競争優位性を構築したりすることも重要になります。
資金調達を行う際には、必要な資金額を明確にし、企業価値、調達額、希薄化率、資金使途、次回の資金調達までを総合的に考えましょう。
企業価値は、単なる「会社の値段」ではありません。資金調達によってどの程度の株式を投資家に渡すのか、既存株主の持株比率をどの程度維持できるのか、そして調達した資金によって会社をどこまで成長させられるのかを判断するための重要な指標です。
自社の成長段階に適した資金調達方法を選び、企業価値と資本政策のバランスを考えながら資金調達を進めることが、長期的な企業成長につながります。
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