経営者保証改革プログラムとは?中小企業の融資に与える影響や利用時のポイントを解説
2026年9月1日
中小企業が金融機関から融資を受ける際には、経営者が個人保証を求められるケースが少なくありません。会社の借入について経営者個人が保証する「経営者保証」は、企業の資金調達を支える一方で、経営者が事業に失敗した場合に個人資産まで失うリスクや、思い切った事業活動を妨げる要因になることが指摘されてきました。
こうした背景から、政府は経営者保証に依存しない融資慣行を促進するため、2022年12月に「経営者保証改革プログラム」を策定しました。金融庁、経済産業省、財務省が連携し、個人保証に依存しない融資の普及や、金融機関による保証徴求時の説明の充実などを進めています。
経営者保証改革プログラムは、経営者が「融資を受けるなら必ず個人保証が必要」と考える状況を変えていくための重要な取り組みです。
本記事では、経営者保証改革プログラムの概要から、策定された背景、具体的な取り組み、経営者保証を付けずに融資を受けるために意識したいポイントまで詳しく解説します。
経営者保証改革プログラムとは
経営者保証改革プログラムとは、経営者保証に依存しない融資慣行を確立するために、金融庁、経済産業省、財務省が2022年12月23日に策定した取り組みです。政府は、経営者保証に依存した融資を抑制し、事業者がより積極的に事業へ取り組める環境を整備することを目的としています。
経営者保証とは、企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が会社の借入金について保証する仕組みです。
会社が借入金を返済できなくなった場合、一定の条件のもとで保証人である経営者が返済義務を負うことになります。
これまで中小企業の融資では、会社と経営者の資産や資金の区分が明確でないことなどを理由として、経営者保証が付けられるケースがありました。
経営者保証改革プログラムでは、こうした融資慣行を見直し、個人保証に過度に依存しない資金調達を促進しています。
経営者保証が求められてきた理由
経営者保証が利用されてきた背景には、中小企業の経営者と会社の関係があります。
大企業と比較すると、中小企業では経営者個人と会社との資産関係が近くなりやすく、会社の経営状況を判断するうえで経営者個人の資産や経営姿勢が重視される場合があります。
また、経営者保証には、経営者による規律を確保する役割もあると考えられてきました。
経営者が個人保証を負っていれば、会社の資金を私的に流用したり、無理な経営判断を行ったりすることを抑制する効果が期待されます。
一方で、経営者保証には問題点もあります。
事業が失敗した場合に経営者個人が大きな負担を負う可能性があるため、起業や新規事業への挑戦、事業承継などをためらう要因になる可能性があります。
経営者保証改革プログラムは、こうしたメリットとデメリットを踏まえながら、個人保証に過度に依存しない融資慣行を目指すものです。
経営者保証改革プログラムが策定された背景
経営者保証改革プログラムが策定された大きな背景には、経営者保証が企業の成長や新たな挑戦を阻害する可能性があることが挙げられます。
経営者が会社の借入について個人保証を負っている場合、事業に失敗すると個人の財産まで影響を受ける可能性があります。
そのため、経営者がリスクを取った新規事業や設備投資などに慎重になりすぎることがあります。
また、事業承継の場面でも、後継者が経営者保証を引き継ぐことが負担となるケースがあります。
政府はこうした課題を踏まえ、経営者保証に依存しない融資を促進することで、起業や事業承継、成長投資などを行いやすい環境の整備を進めています。
経営者保証改革プログラムの目的
経営者保証改革プログラムの目的は、単純に「経営者保証をなくす」ことだけではありません。
重要なのは、会社の財務状況や経営の透明性などを高めることで、経営者保証がなくても金融機関が適切に融資判断できる環境を作ることです。
そのため、経営者保証改革プログラムでは、金融機関側の取り組みだけでなく、事業者側が経営の透明性を高めることも重要になります。
会社と経営者の資産を明確に区分し、適切な財務情報を金融機関へ提供できる状態を整えることが、経営者保証に依存しない融資につながります。
経営者保証改革プログラムの主な取り組み
経営者保証改革プログラムでは、金融庁、経済産業省、財務省がそれぞれの立場から取り組みを進めています。
金融庁は、民間金融機関による経営者保証の取り扱いについて、監督指針の改正などを通じて、安易に個人保証へ依存する融資を抑制する取り組みを進めています。
また、経営者保証を徴求する場合には、その必要性などについて事業者や保証人へ説明することが求められるようになりました。
さらに、信用保証協会の保証付融資についても、個人保証を不要とする制度の活用などが進められています。
金融機関には経営者保証の必要性を説明することが求められる
経営者保証改革プログラムの重要なポイントの一つが、金融機関による説明の充実です。
2023年4月1日から、金融機関が経営者などと個人保証契約を締結する場合には、保証契約の必要性などについて、事業者や保証人へ詳細に説明することが求められています。
これにより、経営者側が「なぜ個人保証が必要なのか」を理解しないまま保証契約を締結する状況を減らすことが期待されています。
金融機関が保証を求める場合には、会社の財務状況や経営者との資産関係などを踏まえ、その必要性を説明することが重要になります。
経営者保証を外すための3つのポイント
経営者保証に依存しない融資を実現するためには、企業側の経営管理も重要になります。
特に意識したいのが、「法人と経営者の資産・経理の明確な分離」「財務基盤の強化」「金融機関への適切な情報開示」です。
会社の預金を経営者個人の生活費に利用するなど、法人と個人のお金が混在している状態では、金融機関から見た会社の財務状況が分かりにくくなります。
反対に、法人と個人の資産を明確に分け、適切な会計処理を行っていれば、会社の財務状況を金融機関へ説明しやすくなります。
また、十分な自己資本を確保し、財務基盤を安定させることも重要です。
法人と経営者の資産を分けることが重要
経営者保証を付けない融資を目指す場合、会社と経営者個人の資産を明確に区分することが重要です。
たとえば、会社の事業に必要な設備や資産は法人名義で保有し、経営者個人の生活費などを会社の経費として処理しないようにする必要があります。
また、経営者と会社との間で貸し借りがある場合には、その内容や金額を明確に管理することも重要です。
会社と経営者の資金が明確に区分されていれば、金融機関から見ても企業の財務状況を把握しやすくなります。
これは経営者保証を外すことだけでなく、会社の経営状態を正確に把握するうえでも重要な取り組みです。
財務基盤を強化することも経営者保証対策になる
経営者保証を付けない融資を目指す場合、会社自身の返済能力を高めることも重要です。
金融機関は融資を行う際、会社が借入金を返済できるかどうかを確認します。
十分な利益を確保し、自己資本を蓄積している企業であれば、経営者保証に依存せずに融資を受けられる可能性が高まります。
もちろん、財務内容が良ければ必ず経営者保証が不要になるわけではありません。
しかし、売上や利益が安定しており、過度な借入に依存していない会社であれば、金融機関に対して返済能力を説明しやすくなります。
金融機関への情報開示も重要になる
経営者保証に依存しない融資を受けるためには、金融機関との信頼関係を構築することも重要です。
会社の業績が悪化した場合に、その情報を隠すのではなく、原因や今後の改善策を説明することが大切です。
また、決算書や試算表などの財務情報を適切に提出し、事業計画についても具体的に説明できる状態を整えておきましょう。
金融機関から見れば、企業の経営状態が分からないことは融資判断上のリスクになります。
反対に、経営状態や資金繰りを適切に開示している企業であれば、金融機関も事業の状況を把握しやすくなります。
経営者保証改革プログラムで融資はどう変わったのか
経営者保証改革プログラムによって、金融機関が経営者保証を求める際の対応がより明確化されています。
従来は「中小企業の融資では経営者保証が必要」という考え方が根強くありましたが、現在は経営者保証に依存しない融資を促進する方向へ政策が進んでいます。
金融庁は、経営者保証改革プログラムの趣旨を踏まえ、金融機関に対して個人保証に依存しない融資の促進を求めています。
また、2024年には金融機関による保証徴求時の説明プロセスやモニタリングなどに関する事例集も公表され、金融機関の取り組みを促す動きが続いています。
経営者保証改革プログラムで保証が完全になくなるわけではない
注意したいのは、経営者保証改革プログラムが「今後すべての融資で経営者保証が不要になる」という制度ではないことです。
経営者保証を付けない融資が促進されている一方で、金融機関が必要性を判断した結果、経営者保証を求めるケースはあります。
そのため、融資を申し込む際には「経営者保証改革プログラムがあるから保証は不要」と考えるのではなく、自社の財務状況や経営管理体制を整えることが重要です。
経営者保証を求められた場合には、その必要性について金融機関へ説明を求め、自社がどのような点を改善すれば保証なしの融資を検討してもらえるのか相談する方法もあります。
経営者保証を付けずに融資を受けるメリット
経営者保証を付けない融資には、経営者個人のリスクを軽減できるという大きなメリットがあります。
会社の借入について経営者個人が保証していなければ、会社の事業に問題が発生した場合でも、経営者個人の資産への影響を抑えられる可能性があります。
また、経営者が新しい事業や設備投資に挑戦しやすくなることも期待できます。
さらに、事業承継の場面でもメリットがあります。
後継者が会社を引き継ぐ際に、多額の経営者保証まで引き継ぐことになれば、事業承継そのものをためらう可能性があります。
経営者保証に依存しない融資慣行が定着すれば、事業承継を行う際の負担軽減にもつながる可能性があります。
経営者保証を付けない融資には注意点もある
経営者保証が不要になることはメリットが大きい一方、必ずしもすべての企業にとって有利とは限りません。
金融機関によっては、経営者保証を付けない代わりに金利などの融資条件が変わる可能性があります。
また、経営者保証がない場合でも、企業には当然ながら借入金の返済義務があります。
「保証がないから返済しなくてもよい」という意味ではありません。
むしろ、会社自身の財務基盤や収益力を高め、法人として借入金を返済できる状態を作ることが重要です。
信用保証協会の制度も確認しておきたい
中小企業が融資を受ける場合、信用保証協会の保証を利用するケースがあります。
経営者保証改革プログラムでは、信用保証協会の保証付融資についても、個人保証を不要とする取り扱いの活用が促されています。
また、「事業者選択型経営者保証非提供制度」のように、一定の要件を満たした事業者が経営者保証を提供しないことを選択できる制度もあります。
このような制度を利用できるかどうかは、企業の規模や財務状況、融資内容などによって異なります。
融資を申し込む際には、金融機関や信用保証協会に経営者保証が不要となる制度について相談してみるとよいでしょう。
創業時の経営者保証も見直されている
経営者保証改革プログラムでは、創業時の融資についても経営者保証に依存しない仕組みを促進しています。
創業者にとって、会社を設立した直後から個人保証を負うことは大きな心理的負担になる可能性があります。
特に、事業に失敗した場合に個人資産まで影響を受ける可能性があると、新たな事業に挑戦することをためらうケースも考えられます。
そのため、創業者が個人保証に過度に依存せずに資金調達できる環境を整備することは、スタートアップや中小企業の新陳代謝を促すうえでも重要です。
経営者保証改革プログラムは事業承継にも関係する
経営者保証は、事業承継の場面でも重要な問題になります。
会社を後継者へ引き継ぐ場合、会社の借入に対する経営者保証まで後継者が引き継ぐことになれば、後継者に大きな負担が生じる可能性があります。
経営者保証改革プログラムでは、事業承継時における経営者保証の見直しも重要なテーマとなっています。
金融庁は、M&Aや事業承継などで主たる株主などが変更になる場合、経営者保証の解除に向けた見直しや事業者への説明を行うよう金融機関に求めています。
そのため、事業承継を予定している企業は、株式や事業を引き継ぐだけでなく、既存の経営者保証についても確認しておくことが大切です。
経営者保証を外したい場合は何をすればよいのか
経営者保証を外したい場合、まずは会社の財務状況を整理することから始めましょう。
会社と経営者の資産が明確に分離されているか、会社から経営者への貸付金などが残っていないか、適切な会計処理が行われているかを確認します。
さらに、利益を確保して自己資本を充実させ、借入金の返済能力を高めることも重要です。
そのうえで、金融機関に対して決算書や試算表などの資料を適切に提出し、現在の経営状況や今後の事業計画を説明します。
すでに経営者保証付きの融資を利用している場合には、金融機関へ保証解除の可能性について相談することもできます。
金融機関から経営者保証を求められた場合の対応
金融機関から経営者保証を求められた場合、まずは「なぜ保証が必要なのか」を確認しましょう。
経営者保証改革プログラムの趣旨を踏まえ、金融機関には保証契約の必要性などについて説明することが求められています。
そのため、単に保証を求められたから契約するのではなく、自社のどのような点が保証の必要性につながっているのかを確認することが大切です。
たとえば、法人と経営者の資産が十分に分離されていないことや、財務基盤が弱いことなどが理由であれば、改善策を金融機関と相談できる可能性があります。
経営者保証改革プログラムを経営改善につなげる
経営者保証改革プログラムは、単に「個人保証をなくすための制度」として捉えるのではなく、企業経営を健全化するきっかけとして活用することもできます。
会社と経営者の資産を明確に分けること、適切な会計処理を行うこと、財務情報を適切に開示することは、経営者保証の有無に関係なく重要です。
また、財務内容を改善すれば、融資条件の改善や追加融資の可能性につながる場合もあります。
金融機関とのコミュニケーションを継続し、自社の経営状況を正確に伝えることも重要です。
経営者保証改革プログラムの最新動向も確認しよう
経営者保証改革プログラムは2022年に策定されて終了するものではなく、その後も金融機関への監督や取り組みの浸透が続いています。
金融庁は現在も「経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けた施策等」を公開しており、経営者保証に関するガイドラインの活用実績や金融機関の取り組み方針などを公表しています。2026年7月31日にも個別金融機関の実績や取組方針に関する情報が更新されています。
また、2025年以降も金融庁は経営者保証改革プログラムの趣旨を金融機関へ周知し、個人保証に依存しない融資慣行の定着を促しています。
融資制度や金融機関の対応は今後も変化する可能性があるため、実際に融資を申し込む際には最新情報を確認することが重要です。
まとめ
経営者保証改革プログラムとは、経営者保証に依存しない融資慣行を確立するために、金融庁、経済産業省、財務省が2022年12月に策定した取り組みです。
従来の中小企業向け融資では、会社が借入を行う際に経営者個人が保証人となるケースがありました。しかし、経営者保証には、経営者個人の財産に対するリスクだけでなく、起業や新規事業、事業承継などを妨げる可能性があるという課題があります。
経営者保証改革プログラムでは、こうした課題を解消するため、個人保証に依存しない融資の促進や、経営者保証を求める際の金融機関による説明の充実などが進められています。
ただし、経営者保証改革プログラムによって、すべての融資で経営者保証が不要になったわけではありません。
経営者保証を付けずに融資を受けるためには、法人と経営者の資産を明確に区分すること、財務基盤を強化すること、金融機関へ経営状況を適切に開示することなどが重要です。
また、信用保証協会の保証付融資などでは、経営者保証を不要とする制度を利用できる場合があります。
「融資を受けるなら経営者保証は必須」と決めつけるのではなく、現在利用できる制度や金融機関の取り扱いを確認し、自社の財務状況を整えておくことが大切です。
経営者保証改革プログラムは、経営者個人のリスクを軽減するだけでなく、企業がより積極的に事業へ挑戦し、事業承継を円滑に進めるための環境づくりにもつながる重要な取り組みです。融資を検討している経営者は、制度の内容を理解するとともに、自社の経営管理や財務体質を見直すきっかけとして活用するとよいでしょう。
