株式の希薄化とは?仕組みや原因、株主への影響をわかりやすく解説
2026年9月1日
スタートアップや企業が事業を成長させるために資金調達を行う際、重要な論点の一つとなるのが「株式の希薄化」です。新たな株式を発行して投資家から出資を受けると、会社には返済不要の資金が入る一方で、既存株主が保有する株式の割合が低下することがあります。
株式の希薄化は、単純に「株式の価値が下がる」という意味ではありません。新株発行によって発行済株式数が増えることで、既存株主の持株比率や議決権比率などが低下することを指します。一方で、調達した資金によって会社の企業価値が大きく向上すれば、希薄化が起きても既存株主にとってプラスになる可能性があります。
特にスタートアップでは、創業期から複数回の資金調達を行うケースも多く、株式の希薄化をどの程度許容するのかを考えることが重要です。資金調達額だけを見て判断すると、将来的な経営権や株主構成に大きな影響が生じる可能性もあります。
この記事では、株式の希薄化が起こる仕組みや原因、既存株主への影響、メリット・デメリット、希薄化を抑える方法などについて詳しく解説します。
株式の希薄化とは
株式の希薄化とは、新株発行などによって発行済株式数が増加し、既存株主が保有する株式の持株比率が低下することです。
たとえば、会社が発行済株式を100株発行しており、そのすべてを創業者が保有しているとします。この場合、創業者の持株比率は100%です。
その後、会社が新たに100株を発行して投資家に引き受けてもらった場合、発行済株式数は合計200株になります。創業者が引き続き100株を保有していたとしても、持株比率は50%まで低下します。
このように、創業者が保有している株式の「数」が減っていなくても、会社全体に占める割合が小さくなることがあります。これが株式の希薄化です。
株式の希薄化を理解するうえでは、「保有株数」と「持株比率」を分けて考えることが重要です。
株式の希薄化が起こる仕組み
株式の希薄化は、主に会社が新しい株式を発行することで起こります。
会社が投資家から出資を受ける場合、投資家に対して新株を発行する方法があります。会社には新たな資金が入りますが、その代わりに発行済株式数が増えるため、既存株主の持株比率が低下します。
たとえば、発行済株式が1,000株の会社が500株の新株を発行すると、発行済株式数は1,500株になります。
既存株主が500株を保有している場合、以前は50%の持株比率でしたが、新株発行後は500株÷1,500株となり、約33.3%になります。
この場合、既存株主の保有株数そのものは500株のままです。しかし、会社全体の株式数が増えたことで、持株比率が低下しています。
株式の希薄化と資金調達の関係
スタートアップでは、事業を成長させるために外部から資金調達を行うことがあります。
その代表的な方法が、投資家に株式を発行して資金を調達するエクイティファイナンスです。
エクイティファイナンスでは、会社が投資家から出資を受ける代わりに株式を渡します。融資とは異なり、原則として借入金のような元本返済が必要ないことが大きな特徴です。
一方、投資家に新株を発行すると、既存株主の持株比率が低下する可能性があります。
そのため、資金調達では「いくら調達できるか」だけでなく、「その資金を調達するためにどの程度の株式を渡すのか」という視点が重要になります。
たとえば、1億円を調達できたとしても、そのために会社の株式の大部分を投資家に渡すことになれば、創業者の経営権に大きな影響が出る可能性があります。
反対に、適切な企業価値評価を受け、必要な株式だけを発行して十分な資金を確保できれば、希薄化を抑えながら事業成長につなげられる可能性があります。
株式の希薄化を計算する方法
株式の希薄化を考える際には、資金調達前後の持株比率を比較するとわかりやすくなります。
たとえば、資金調達前に創業者が8,000株、会社全体で10,000株を保有しているとします。この場合、創業者の持株比率は80%です。
その後、投資家に対して5,000株を新たに発行した場合、会社全体の株式数は15,000株になります。
創業者は8,000株を保有しているため、資金調達後の持株比率は約53.3%です。
つまり、創業者の持株数は8,000株から変わっていないものの、持株比率は80%から約53.3%に低下しています。
このように、新株発行による株式の希薄化を検討するときは、資金調達前後の発行済株式数と自分の保有株数を確認することが基本です。
株式の希薄化が起こる主な原因
株式の希薄化が起こる原因は、新株発行だけではありません。
企業が資金調達を行う際の第三者割当増資や公募増資などによって、新たな株式が発行されれば、既存株主の持株比率が低下する可能性があります。
また、ストックオプションなどの新株予約権が行使され、新しい株式が発行された場合にも希薄化が起こる可能性があります。
さらに、転換社債型新株予約権付社債など、将来的に株式へ転換される可能性がある金融商品についても、潜在的な希薄化を考慮する必要があります。
スタートアップでは、従業員へのストックオプション付与や、複数回の資金調達を行うケースもあるため、現在の株主構成だけでなく、将来的に株式数が増える可能性についても確認することが大切です。
第三者割当増資による株式の希薄化
第三者割当増資とは、特定の第三者に対して新たに株式を発行する方法です。
スタートアップがベンチャーキャピタルや事業会社などから出資を受ける場合にも利用されることがあります。
会社にとっては、新たな資金を確保できるメリットがあります。また、単なる資金提供だけではなく、出資者との業務提携や販路拡大などにつながる可能性もあります。
一方、新株を発行するため、既存株主の持株比率が低下する可能性があります。
第三者割当増資を行う場合は、発行する株式数だけでなく、発行価格や会社の企業価値、投資家が取得する持株比率などを総合的に検討する必要があります。
株式の希薄化は必ずしも悪いことではない
「株式の希薄化」と聞くと、既存株主にとって悪いことのように感じるかもしれません。
しかし、株式の希薄化が起こること自体が必ずしも悪いわけではありません。
重要なのは、新株発行によって得た資金を使って会社がどれだけ成長できるかという点です。
たとえば、創業者が100%の株式を保有している会社が、外部投資家に20%の株式を渡して1億円を調達したとします。
この結果、創業者の持株比率は80%になります。
しかし、調達した1億円を活用して事業を大きく成長させ、企業価値が数倍になれば、創業者が保有する株式の経済的価値も高まる可能性があります。
つまり、持株比率が低下しても、会社全体の価値がそれ以上に成長すれば、既存株主にとってメリットになる場合があります。
株式の希薄化を判断するときは、「何%減ったか」だけではなく、「何のために資金を調達し、その結果として企業価値をどこまで高められるのか」を考えることが重要です。
株式の希薄化によるメリット
株式の希薄化には、既存株主にとっても間接的なメリットがあります。
最も大きなメリットは、会社が外部から大きな資金を調達できることです。
銀行融資などでは返済が必要になりますが、エクイティファイナンスでは原則として元本の返済義務がありません。そのため、売上がまだ安定していないスタートアップでも、調達資金を事業成長に集中して使える場合があります。
また、出資者から経営支援を受けられる可能性もあります。
ベンチャーキャピタルや事業会社などが株主になることで、営業先の紹介、人材採用、経営ノウハウ、業界ネットワークなどを活用できる場合があります。
さらに、資金調達によって事業規模が拡大すれば、企業価値の向上につながる可能性があります。
このように、適切な資金調達による希薄化は、会社を成長させるための必要なコストとして考えられる場合があります。
株式の希薄化によるデメリット
株式の希薄化にはデメリットもあります。
代表的なのが、既存株主の持株比率が低下することです。
持株比率が低下すると、株主総会における議決権にも影響する可能性があります。特に創業者にとっては、持株比率が大きく低下すると、経営上の意思決定に対する影響力が弱くなる可能性があります。
また、資金調達を繰り返して新株を発行すると、創業者や既存株主の持株比率が徐々に低下していく可能性があります。
さらに、新しい株主が増えることで、経営方針について調整が必要になるケースもあります。
そのため、資金調達を行う際には、目先の資金不足を解消するだけではなく、将来的な株主構成まで考えておくことが重要です。
株式の希薄化が経営権に与える影響
株式の希薄化を考えるうえで、経営権への影響は特に重要です。
株式会社では、株主が保有する株式数に応じて議決権を持つのが基本です。そのため、創業者の持株比率が低下すると、株主総会などにおける意思決定への影響力も変化する可能性があります。
たとえば、創業者が会社の株式を100%保有している場合、基本的には創業者が単独で株主として意思決定できます。
しかし、外部投資家に株式を発行して創業者の持株比率が50%を下回ると、他の株主との関係によっては単独で重要な意思決定を行うことが難しくなる可能性があります。
ただし、実際の議決権や会社の意思決定への影響は、株式の種類、定款、株主間契約、会社法上の決議要件などによって異なります。
そのため、資金調達による希薄化を検討するときは、単純な持株比率だけでなく、どのような権利を持つ株式を発行するのかまで確認することが重要です。
スタートアップにおける株式の希薄化
スタートアップでは、事業の成長に合わせて複数回の資金調達を行うことがあります。
創業直後に創業者が自己資金で事業を開始し、その後エンジェル投資家から出資を受け、さらに事業が成長した段階でベンチャーキャピタルから出資を受けるといったケースです。
この場合、資金調達のたびに新株を発行すると、創業者の持株比率は徐々に低下する可能性があります。
たとえば、最初の資金調達で創業者の持株比率が80%になり、次の資金調達で60%、さらにその後の資金調達で40%になるというように、段階的に希薄化することがあります。
もちろん、資金調達によって会社の企業価値が大きく成長すれば、持株比率が低下しても株式の経済的価値が上昇する可能性があります。
そのため、スタートアップでは「希薄化を完全に避ける」ことよりも、「どの程度の希薄化で、どれだけの成長資金を確保できるか」という視点が重要になります。
株式の希薄化と企業価値の関係
株式の希薄化を考える際には、企業価値との関係も理解しておきましょう。
たとえば、資金調達前の企業価値が4億円の会社が、投資家から1億円の出資を受けたとします。
単純化して考えると、資金調達後の企業価値は5億円となり、投資家はそのうち1億円分に相当する株式を取得することになります。この場合、投資家の持株比率は20%となり、既存株主の持株比率は合計80%になります。
このように、資金調達前の企業価値をどのように評価するかによって、同じ1億円を調達する場合でも既存株主の希薄化率が変わります。
企業価値が高く評価されれば、同じ金額を調達する場合でも発行する株式の割合を小さくできる可能性があります。
そのため、資金調達では調達額だけではなく、資金調達前の企業価値である「プレマネーバリュエーション」や、資金調達後の企業価値である「ポストマネーバリュエーション」も重要になります。
株式の希薄化を抑える方法
株式の希薄化を抑える方法として、まず考えられるのが適切な企業価値で資金調達を行うことです。
会社の価値が低く評価されると、同じ金額を調達する場合でも、投資家に渡す株式の割合が大きくなります。
そのため、事業計画や売上実績、顧客数、市場規模、成長率など、自社の企業価値を適切に説明できる資料を準備することが重要です。
また、必要以上に大きな金額を調達しないこともポイントです。
資金調達額が大きくなるほど、投資家に渡す株式の割合が増える可能性があります。必要な資金を明確にしたうえで、調達額を設定しましょう。
さらに、融資や補助金など、株式を発行しない資金調達方法を組み合わせることも選択肢になります。
株式による資金調達だけに依存せず、事業の状況に応じて複数の資金調達方法を組み合わせることで、希薄化を抑えられる可能性があります。
希薄化を考えるときは次回の資金調達も意識する
スタートアップでは、一度の資金調達ですべての成長資金を確保するとは限りません。
事業の成長に応じて、次のラウンドで追加の資金調達を行う可能性があります。
そのため、現在の資金調達だけを見て株式の希薄化を判断するのではなく、将来的な資金調達まで考えることが重要です。
たとえば、シード期で大きく株式を希薄化させてしまうと、次のラウンドでさらに新株を発行した際、創業者の持株比率が想定以上に低下する可能性があります。
また、投資家によっては将来の資金調達に関する条件を契約に盛り込むこともあります。
そのため、資金調達時には現在の契約条件だけでなく、将来的な資本政策についても専門家に確認することが大切です。
ストックオプションによる希薄化にも注意する
スタートアップでは、優秀な人材を採用・確保するためにストックオプションを活用することがあります。
ストックオプションとは、あらかじめ決められた条件で会社の株式を取得できる権利です。
従業員などにストックオプションを付与すると、将来的に権利が行使されて株式が発行される可能性があります。その場合、既存株主の持株比率が低下する可能性があります。
そのため、資金調達時には現在発行されている株式だけを見るのではなく、ストックオプションなどの潜在株式も含めて株主構成を考えることが重要です。
特にスタートアップでは、投資家との交渉においてストックオプションプールの設定が議論されることがあります。
ストックオプションをどの程度用意するのかによって、創業者や既存株主の希薄化に影響する可能性があるため、契約前に十分確認しましょう。
株式の希薄化を防ぐために融資を活用する方法
株式の希薄化を抑えたい企業は、融資による資金調達を組み合わせることも検討できます。
融資では株式を発行する必要がないため、基本的には既存株主の持株比率に直接影響しません。
たとえば、必要な資金のすべてを投資家から調達するのではなく、一部を金融機関からの融資で調達することで、新株発行による希薄化を抑えられる可能性があります。
ただし、融資には返済義務があります。
特に創業間もないスタートアップでは、売上が安定していない状態で大きな借入を行うと、毎月の返済が資金繰りを圧迫する可能性があります。
そのため、「希薄化を避けるためなら融資を増やせばよい」と考えるのではなく、事業のキャッシュフローや返済能力を考慮して判断することが大切です。
株式の希薄化を検討するときの注意点
株式の希薄化を検討するときは、持株比率だけでなく、会社全体の成長性を考えることが重要です。
株式の割合を高く維持することだけを優先すると、必要な資金を調達できず、事業の成長が遅れてしまう可能性があります。
反対に、資金調達を優先しすぎて株式を大量に発行すると、創業者の経営権や将来の資本政策に大きな影響が出る可能性があります。
重要なのは、資金調達によって得られるメリットと希薄化による影響を比較することです。
「何%の株式を渡すのか」だけではなく、「その株式と引き換えに、いくらの資金を得られるのか」「その資金でどの程度の成長が期待できるのか」「次回の資金調達にどのような影響があるのか」まで考えましょう。
株式の希薄化に関するよくある質問
株式の希薄化は株価が下がることですか
株式の希薄化と株価の下落は同じ意味ではありません。
株式の希薄化は、新株発行などによって発行済株式数が増え、既存株主の持株比率が低下することを指します。
一方、株価の下落は、1株あたりの市場価格などが低下することです。
新株発行によって希薄化が起こっても、調達した資金を活用して企業価値が高まれば、既存株主にとってプラスになる可能性があります。
株式の希薄化は何%までなら問題ありませんか
一律に「何%までなら問題ない」という基準があるわけではありません。
企業の成長段階や資金調達額、企業価値、創業者の持株比率、投資家との契約内容などによって適切な水準は変わります。
特にスタートアップでは、複数回の資金調達を行う可能性があるため、1回の資金調達だけでなく、将来的な希薄化まで考えて判断することが重要です。
株式の希薄化を避けることはできますか
新株を発行して出資を受ける場合、既存株主の持株比率が低下する可能性があります。
希薄化を抑えたい場合は、必要な調達額を適切に設定したり、企業価値を適切に評価してもらったりすることが重要です。
また、融資や補助金など、株式を発行しない資金調達方法を組み合わせる方法もあります。
株式の希薄化は既存株主にとって悪いことですか
必ずしも悪いとは限りません。
新株発行によって既存株主の持株比率は低下しますが、調達した資金を使って会社が大きく成長すれば、保有株式の価値が高まる可能性があります。
重要なのは、希薄化の割合だけを見るのではなく、資金調達によって会社がどの程度成長できるのかを考えることです。
まとめ
株式の希薄化とは、新株発行などによって発行済株式数が増加し、既存株主の持株比率が低下することです。スタートアップがベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などから出資を受ける場合、資金調達の対価として新株を発行することで希薄化が起こるケースがあります。
株式の希薄化には、既存株主の持株比率や議決権比率が低下するというデメリットがあります。特に創業者にとっては、資金調達を繰り返すことで持株比率が大きく低下し、経営への影響力が弱くなる可能性があるため注意が必要です。
一方で、希薄化そのものが悪いわけではありません。新株発行によって得た資金を人材採用やプロダクト開発、マーケティングなどに投入し、会社の企業価値を大きく高められれば、持株比率が低下しても既存株主が保有する株式の価値が高まる可能性があります。
そのため、資金調達では「どれだけ株式を渡すか」だけではなく、「どれだけの資金を調達し、その資金によって会社をどこまで成長させるのか」という視点が重要です。
また、株式の希薄化を抑えるためには、必要以上の資金調達を避け、企業価値を適切に評価してもらうことが大切です。融資や補助金など、株式を発行しない資金調達方法を組み合わせることも選択肢になります。
特にスタートアップでは、シード期から複数回の資金調達を行うこともあるため、目の前の資金調達だけでなく、将来的な株主構成や資本政策まで考えておく必要があります。
株式の希薄化は、会社を成長させるための資金を確保する一方で、既存株主の権利や経営権にも影響する重要なテーマです。資金調達を検討する際は、調達額や持株比率だけで判断せず、企業価値、資金使途、将来の資金調達、議決権などを総合的に確認し、自社にとって適切な資本政策を設計することが重要です。
