タームシートとは?資金調達で確認すべき項目や作成する目的、契約時の注意点を解説
2026年9月1日
スタートアップやベンチャー企業が投資家から資金調達を行う際には、出資額や株式の条件など、さまざまな事項について交渉する必要があります。特に株式による資金調達では、単純に「いくら出資してもらうか」だけでなく、企業価値や株式の種類、投資家の権利、経営への関与など、多くの条件を決めなければなりません。
こうした投資条件を整理するために活用されるのが「タームシート」です。
タームシートは、投資家と企業が資金調達に関する主要な条件を確認するために作成する書類です。最終的な契約書を作成する前に、双方が合意した条件を整理しておくことで、その後の契約交渉をスムーズに進めやすくなります。
一方で、タームシートに記載される内容には、企業価値や株式の希薄化、投資家の権利など、資金調達後の経営に大きく影響する事項が含まれます。そのため、内容を十分に理解しないまま合意すると、後から不利な条件に気づく可能性があります。
この記事では、タームシートの意味や作成する目的、記載される代表的な項目、投資契約書との違い、確認する際のポイントや注意点について詳しく解説します。
タームシートとは
タームシートとは、企業が投資家から出資を受ける際に、投資条件を整理した書類のことです。
英語では「Term Sheet」と表記され、資金調達に関する主要な条件をまとめたものとして、スタートアップやベンチャー企業の資金調達で利用されています。
たとえば、投資金額や企業価値、発行する株式の種類、投資家が取得する株式の割合などが記載されます。
また、投資家が持つ議決権や取締役の選任に関する権利、情報開示に関する事項など、企業経営に関係する条件が盛り込まれることもあります。
タームシートは、投資家と企業が交渉してきた内容を整理し、双方がどのような条件で資金調達を進めるのかを確認する役割を持っています。
ただし、タームシートに記載されたすべての内容が、そのまま最終的な契約上の義務になるとは限りません。法的拘束力の有無や範囲は、記載内容や合意方法などによって異なるため、契約書とは区別して考える必要があります。
タームシートを作成する目的
タームシートを作成する大きな目的は、資金調達に関する条件を整理し、企業と投資家の認識を一致させることです。
スタートアップの資金調達では、投資家との間でさまざまな条件について交渉します。
たとえば、企業側はできるだけ高い企業価値で資金調達したいと考える一方、投資家側は投資リスクを考慮して適切な条件を求めます。
さらに、株式の種類や投資家の権利などについても細かく調整する必要があります。
これらを口頭やメールだけで交渉していると、後から認識の違いが発生する可能性があります。
そこで、主要な条件をタームシートにまとめておくことで、「どの条件について合意したのか」を明確にできます。
その後、タームシートの内容をもとに投資契約書や株主間契約書などの正式な契約書を作成していきます。
タームシートはいつ作成するのか
タームシートは、投資家との資金調達交渉がある程度進んだ段階で作成されることが一般的です。
企業が投資家に事業計画や資金調達の目的などを説明し、投資家側が投資を前向きに検討するようになると、具体的な投資条件について交渉を開始します。
この段階で、企業価値や投資金額、株式の種類などを整理してタームシートにまとめます。
タームシートの内容について双方が合意した後、デューデリジェンスや契約書の作成など、正式な投資手続きへ進むケースがあります。
ただし、実際の流れは投資家や資金調達の規模、契約形態などによって異なります。
タームシートに記載される主な項目
タームシートには、資金調達に関するさまざまな条件が記載されます。
どの項目を記載するかは案件によって異なりますが、企業価値や投資金額、株式に関する事項、投資家の権利などが重要なポイントになります。
タームシートを見る際には、単に投資金額だけを確認するのではなく、資金調達後に投資家がどのような権利を持つのかまで確認することが大切です。
企業価値やバリュエーション
タームシートで重要な項目の一つが企業価値です。
投資家から出資を受ける場合、企業がどの程度の価値で評価されているのかによって、投資家に渡す株式の割合が変わります。
企業価値には、資金調達前の「プレマネーバリュエーション」と、資金調達後の「ポストマネーバリュエーション」という考え方があります。
たとえば、資金調達前の企業価値が4億円で、投資家から1億円の出資を受ける場合、単純化すると資金調達後の企業価値は5億円となります。
この場合、投資家が取得する株式の割合は、1億円を5億円で割った20%が一つの目安になります。
実際の資金調達では株式の種類や契約条件などによって複雑になる場合がありますが、企業価値と調達額が株主構成に大きく関係することは理解しておく必要があります。
投資金額
タームシートには、投資家が企業へ出資する金額も記載されます。
企業側は、事業計画を実現するために必要な資金額を明確にしたうえで、投資家と調達額を交渉します。
投資金額が大きければ、それだけ多くの資金を事業へ投入できます。
一方で、株式を発行して調達する場合には、既存株主の持株比率が低下する可能性があります。
そのため、「できるだけ多く調達すればよい」というものではありません。
必要な資金額と株式の希薄化のバランスを考えながら調達額を決定することが重要です。
発行する株式の種類
タームシートでは、投資家へどのような株式を発行するのかについても確認します。
普通株式だけでなく、種類株式を発行して資金調達を行うケースもあります。
種類株式には、普通株式とは異なる権利を付けることができます。
たとえば、配当や残余財産の分配などについて、一定の優先権を持つ株式が設定されることがあります。
投資家にどのような権利を与えるのかによって、企業側の負担や将来的な資本政策への影響が変わる可能性があります。
そのため、株式の種類については名称だけで判断せず、具体的な権利内容を確認することが重要です。
株式の希薄化について
タームシートを確認する際には、株式の希薄化にも注意が必要です。
希薄化とは、新たに株式を発行することによって、既存株主の持株比率が低下することを指します。
たとえば、創業者が100%の株式を保有している会社が新たに投資家へ20%相当の株式を発行すると、創業者の持株比率は80%になります。
資金調達によって事業を成長させられるのであれば、一定の希薄化は合理的な場合があります。
しかし、将来的に何度も資金調達を行う予定がある場合、1回の資金調達だけでなく、その後の希薄化まで考える必要があります。
タームシートに記載された条件が将来の株主構成にどのような影響を与えるのかを確認しておきましょう。
投資家の議決権
投資家が株主になる場合、株式の内容によっては議決権を持つことになります。
議決権の割合が大きくなると、株主総会における意思決定に影響を与える可能性があります。
特に創業者にとっては、株式を何%渡すのかだけでなく、投資家がどの程度の議決権を持つことになるのかが重要です。
また、種類株式を発行する場合には、議決権に関する特別な条件が設定される可能性もあります。
資金調達後の経営権をどのように維持するのかを考えながら、条件を確認することが大切です。
取締役の選任や経営への関与
投資家によっては、取締役の選任や経営に関する一定の権利を求めることがあります。
投資家から経営経験や専門知識を提供してもらえるのであれば、企業にとって有益な場合もあります。
一方で、経営者が自由に意思決定できる範囲が狭くなる可能性もあります。
そのため、タームシートに取締役の選任やオブザーバーの派遣などに関する条件が記載されている場合は、具体的な内容を確認することが重要です。
優先株式に関する条件
スタートアップの資金調達では、優先株式が利用されることがあります。
優先株式とは、普通株式とは異なる一定の優先的な権利を持つ株式です。
たとえば、会社を売却した場合や清算した場合に、普通株主よりも先に一定の金額を受け取れる権利が設定されるケースがあります。
こうした条件は投資家にとってリスクを抑えるための重要な仕組みですが、企業側や創業者側からすると、将来的な利益配分などに影響する可能性があります。
そのため、優先株式を発行する場合は、どのような権利が付与されるのかを十分に理解する必要があります。
みなし清算条項とは
タームシートで確認しておきたい項目の一つが、みなし清算に関する条件です。
みなし清算条項とは、企業のM&Aなど一定の取引を、清算と同様に扱って投資家への分配を行うための条件を指します。
たとえば、企業が第三者へ売却された場合に、投資家が一定の優先順位で売却代金を受け取る仕組みが設定されることがあります。
こうした条項は、投資家にとって投資資金を回収するための重要な条件です。
一方で、企業価値が十分に上昇しなかった場合などには、創業者や普通株主が受け取れる金額に大きな影響を与える可能性があります。
内容が複雑になりやすいため、契約条件を正確に理解することが重要です。
情報開示に関する条件
投資家が企業へ出資すると、企業側に一定の情報提供を求める場合があります。
たとえば、決算情報や事業計画、資金繰り、経営状況などについて定期的な報告を求められるケースがあります。
投資家にとっては、出資後の企業状況を把握するために重要な権利です。
一方、企業側にとっては報告資料の作成などの負担が発生します。
タームシートに情報開示に関する条件が記載されている場合には、どのような情報を、どの頻度で、どのような方法で報告するのかを確認しましょう。
先買権や共同売却権などの条件
タームシートには、株式の譲渡に関する条件が盛り込まれることもあります。
代表的なものとして、先買権や共同売却権などがあります。
株主が保有株式を第三者へ売却しようとする場合に、既存の株主が優先的に購入できる権利などが設定されることがあります。
また、一部の株主が第三者へ株式を売却するときに、他の株主も同じ条件で株式を売却できるようにする権利が設定される場合もあります。
これらは将来の株式売却やM&Aなどにも関係するため、資金調達時点で確認しておくことが重要です。
タームシートと投資契約書の違い
タームシートと投資契約書は、どちらも資金調達に関係する書類ですが、役割が異なります。
タームシートは、投資条件の主要なポイントを整理し、企業と投資家が交渉内容を確認するために使用されるものです。
一方、投資契約書は、出資に関する具体的な権利や義務などを正式に定める契約書です。
一般的には、タームシートで主要条件について合意した後、その内容を踏まえて正式な契約書を作成します。
ただし、タームシートの法的拘束力については、記載されている項目や文言、当事者間の合意内容によって異なります。
「タームシートだから法的な意味はない」と一律に考えるのは危険です。
タームシートと株主間契約書の違い
株主間契約書は、複数の株主が存在する企業において、株主同士の権利や義務などを定める契約書です。
たとえば、株式の譲渡、経営への関与、議決権、役員の選任などについて取り決めることがあります。
タームシートは資金調達における投資条件を整理する段階で利用されるのに対し、株主間契約書は株主間の具体的な権利関係を契約として定めるものです。
両者は別の書類ですが、タームシートで合意した条件が後の株主間契約などに反映されることがあります。
タームシートに法的拘束力はあるのか
タームシートの法的拘束力については注意が必要です。
タームシートは、通常、最終的な契約書を締結する前の段階で作成されるため、すべての記載事項について法的拘束力があるとは限りません。
しかし、秘密保持や独占交渉など、一部の項目については法的拘束力を持たせることがあります。
また、書類の名称だけで法的拘束力の有無が決まるわけではありません。
実際の文言や当事者間の合意内容などによって判断されるため、「タームシートだから自由に撤回できる」と考えるのは避けたほうがよいでしょう。
重要な条件については、弁護士などの専門家に確認してもらうことも検討しましょう。
タームシートを作成するメリット
企業側にとってタームシートを作成するメリットは、投資条件を整理できることです。
資金調達では、企業価値、投資金額、株式の種類、投資家の権利など、複数の条件について交渉します。
これらを一つの書類にまとめることで、双方が合意した内容を確認しやすくなります。
また、正式な契約書を作成する前に主要条件を確認できるため、契約書作成後に大きな認識違いが発覚するリスクを抑えやすくなります。
さらに、複数の投資家から資金調達する場合にも、投資条件を整理するうえで役立ちます。
タームシートを作成する際の注意点
タームシートを作成するときは、調達額や企業価値だけでなく、投資家が取得する権利まで確認することが重要です。
資金調達では、企業側は「いくら調達できるか」に注目しがちです。
しかし、調達後の経営に大きく影響するのは、投資家へどのような権利を与えるかという点でもあります。
議決権、取締役の選任、情報開示、株式譲渡、優先権など、さまざまな条件を確認する必要があります。
また、現在の資金調達だけでなく、次回以降の資金調達やM&Aなど、将来の資本政策への影響も考慮することが重要です。
タームシートで企業価値を確認する際のポイント
企業価値は、タームシートの中でも特に重要な項目です。
企業価値が高ければ、同じ金額を調達する場合でも、投資家へ渡す株式の割合を抑えられる可能性があります。
一方で、実態以上に高い企業価値を設定すると、次回の資金調達で評価額を維持できない可能性があります。
そのため、現在の売上や利益だけでなく、市場規模、顧客数、成長率、競争優位性、事業計画などを踏まえて企業価値を検討する必要があります。
投資家から提示された企業価値についても、どのような根拠で算定されているのか確認しましょう。
タームシートと株式の希薄化を関連付けて考える
タームシートを確認する際には、株式の希薄化を必ず考慮しましょう。
たとえば、企業が大きな資金を必要としている場合、より多くの株式を投資家へ渡す必要が生じる可能性があります。
短期的には十分な資金を調達できても、創業者の持株比率が大幅に低下すれば、将来的な経営権に影響することがあります。
また、今後も追加の資金調達を予定している場合は、次回以降の希薄化まで考える必要があります。
現在の資金調達条件だけではなく、会社全体の資本政策として判断することが大切です。
タームシートの交渉で意識したいポイント
タームシートは、企業と投資家が条件を交渉するための重要な材料になります。
企業側は、必要な資金額や事業計画を明確にしたうえで、自社にとって受け入れられる条件を整理しておきましょう。
特に注意したいのは、投資金額だけを見て判断しないことです。
たとえば、ある投資家から高額な出資を受けられるとしても、経営への関与が非常に強い条件であれば、企業側にとって必ずしも最適とは限りません。
逆に、出資額がそれほど大きくなくても、業界に精通した投資家から人脈やノウハウを得られるのであれば、企業にとって大きな価値を持つ可能性があります。
金額と条件を総合的に比較することが重要です。
タームシートは専門家に確認してもらうべきか
タームシートには、資金調達や会社法、株式に関する専門的な内容が含まれることがあります。
特に優先株式や議決権、みなし清算、株式譲渡などに関する条件は、内容によって企業経営に大きな影響を与える可能性があります。
そのため、内容を十分に理解できない場合には、弁護士や司法書士、税理士など、案件に応じた専門家へ相談することが重要です。
専門家に確認してもらうことで、企業側が見落としていたリスクや、将来的な資本政策への影響についてアドバイスを受けられる場合があります。
特に初めてエクイティファイナンスを行う企業は、契約条件を自己判断だけで進めないことが大切です。
タームシートを確認するときに見るべきポイント
タームシートを受け取ったら、まず資金調達額と企業価値を確認しましょう。
次に、発行する株式の種類や株式数、投資家の持株比率を確認します。
そのうえで、議決権や取締役の選任、情報開示、株式譲渡などに関する投資家の権利を確認します。
さらに、優先株式が発行される場合は、配当や残余財産の分配、みなし清算などの条件を確認することが重要です。
そして、現在の資金調達だけでなく、将来の追加調達やM&Aなどにどのような影響があるのかを検討します。
タームシートは短い書類に見えても、そこに記載された条件が将来の経営や株主構成を左右することがあります。
タームシートに関するよくある質問
タームシートとは簡単にいうと何ですか
タームシートとは、企業と投資家が資金調達に関する主要な条件を整理するための書類です。
投資金額や企業価値、株式の種類、投資家の権利などを記載し、正式な契約書を作成する前の条件確認や交渉に利用されます。
タームシートと契約書は同じものですか
同じものではありません。
タームシートは、投資条件の主要な事項を整理するために使用される書類です。
一方、投資契約書などの正式な契約書では、当事者の権利や義務などをより具体的に定めます。
ただし、タームシートに記載された内容がその後の正式な契約書へ反映されることがあるため、内容を軽視するべきではありません。
タームシートに法的拘束力はありますか
すべての項目に一律で法的拘束力があるわけではありません。
法的拘束力の有無や範囲は、記載内容や文言、当事者間の合意などによって異なります。
秘密保持や独占交渉など、特定の項目について拘束力を持たせる場合もあるため、内容を確認することが重要です。
タームシートで企業側が特に注意することは何ですか
企業価値や投資金額だけでなく、投資家が取得する権利を確認することが重要です。
特に株式の種類、議決権、取締役の選任、情報開示、みなし清算、株式譲渡などの条件は、将来的な経営や株主構成に影響する可能性があります。
タームシートは誰が作成しますか
企業側が作成する場合もあれば、投資家側が作成する場合もあります。
資金調達の状況や投資家との交渉方法によって異なります。
どちらが作成する場合でも、最終的には双方が内容を確認し、合意した条件を正式な契約書へ反映させていくことが重要です。
まとめ
タームシートとは、企業が投資家から資金調達を行う際に、投資条件の主要な事項を整理するための書類です。
投資金額や企業価値、発行する株式の種類、投資家の持株比率、議決権、経営への関与、情報開示、株式譲渡など、さまざまな条件が記載されます。
タームシートを作成することで、企業と投資家が資金調達の条件を整理し、認識を共有しやすくなります。また、正式な投資契約書などを作成する前に主要条件を確認できるため、後から大きな認識違いが発生するリスクを抑えることにもつながります。
一方で、タームシートは単なる確認資料として軽く扱ってよいものではありません。企業価値や株式の希薄化だけでなく、投資家の議決権、取締役の選任、情報開示、優先株式の権利、みなし清算などの条件によって、資金調達後の経営や株主構成が大きく変わる可能性があります。
また、タームシートに法的拘束力があるかどうかは、記載内容や合意内容などによって異なります。「タームシートだから法的な意味はない」と考えず、具体的な条件を一つずつ確認することが大切です。
特に初めて資金調達を行う企業の場合、自社だけで判断することが難しい条件もあります。必要に応じて弁護士などの専門家に相談し、現在の資金調達だけでなく、次回以降の資金調達やM&A、最終的な株主構成まで見据えて条件を検討しましょう。
タームシートは、企業と投資家が資金調達の条件をすり合わせる重要なステップです。調達できる金額だけを重視するのではなく、企業価値や株式の希薄化、投資家の権利、経営への影響などを総合的に確認することで、将来の企業成長につながる資金調達を目指すことができます。
