自己株式とは?取得するメリットやデメリットと会社法上の仕組みを解説
2026年10月1日
自己株式とは、株式会社が自社の株式を株主から取得して保有する株式のことです。一般的には「自社株買い」と呼ばれることもあり、上場企業だけでなく非上場企業でも活用されています。
自己株式を取得すると、発行済株式総数や株主構成に影響を与えるため、企業の資本政策を考えるうえで重要な制度です。株主への利益還元、株価対策、M&A、組織再編、株主構成の整理など、さまざまな目的で利用されています。
一方で、自己株式の取得には会社法上のルールがあり、会社が自由に取得できるわけではありません。また、取得方法によって必要な手続きや株主総会の決議なども異なります。
ここでは、自己株式の基本的な意味から、取得する理由、メリット・デメリット、取得方法、消却との違い、会計処理、M&Aとの関係まで詳しく解説します。
自己株式とは
自己株式とは、株式会社が自社の株式を取得して保有しているものを指します。
通常、株式は会社が発行し、株主が保有します。しかし、会社がすでに発行した株式を株主から買い戻すことも可能です。
このように会社自身が保有することになった株式が自己株式です。
自己株式は「自社株」や「金庫株」と呼ばれることもあります。
たとえば、ある会社が1,000株を発行しており、そのうち100株を会社自身が株主から買い戻した場合、その100株が自己株式になります。
自己株式は一般的な株主が保有する株式とは異なり、会社法上、議決権や剰余金の配当などについて一定の制限があります。
自己株式と自社株買いの違い
「自己株式」と「自社株買い」は関連する言葉ですが、意味は少し異なります。
自社株買いとは、会社が自社の株式を買い戻す行為そのものを指します。
一方、自己株式とは、自社株買いなどによって会社が取得して保有している株式を指します。
つまり、自社株買いを行った結果として自己株式が発生するという関係です。
たとえば、会社が市場などから自社株を100株購入した場合、その100株は会社が保有する自己株式になります。
会社が自己株式を取得する主な理由
会社が自己株式を取得する理由はさまざまです。
代表的な目的の一つが株主への利益還元です。
会社が自己株式を取得すると、市場に流通する株式数が減少するため、1株当たり利益などの指標に影響を与える可能性があります。
また、株主構成を整理する目的でも利用されます。
特定の株主が保有している株式を会社が買い取ることで、株主構成を調整できる場合があります。
さらに、M&Aや事業承継の場面で自己株式が活用されることもあります。
たとえば、会社が取得した自己株式を消却せずに保有しておけば、将来的に第三者への処分などに活用できる可能性があります。
このほか、株価が割安と判断した場合に自社株買いを行い、株主への還元や資本効率の改善を目指すケースもあります。
自己株式を取得するメリット
自己株式の取得には、会社にとってさまざまなメリットがあります。
まず挙げられるのが株主への利益還元です。
会社が自己株式を取得することで、株主に対して配当とは異なる形で資金を還元できます。
また、発行済株式数に対する自己株式の割合が増えることで、1株当たり利益や1株当たり純資産などの指標に影響を与えることがあります。
さらに、株主構成の整理にも活用できます。
たとえば、株式を集中させたい場合や、特定の株主が保有する株式を整理したい場合に、自己株式の取得を活用できることがあります。
非上場会社では、事業承継や相続などに伴って株式を整理する目的で利用されることもあります。
自己株式を取得するデメリット
自己株式の取得には注意点もあります。
最大のポイントは、会社から資金が流出することです。
自社株を買い戻すためには会社から株主へ対価を支払う必要があるため、取得額が大きくなると会社の手元資金が減少します。
そのため、資金繰りに余裕がない状態で大規模な自己株式取得を行うと、事業運営に必要な資金まで不足する可能性があります。
また、自己株式の取得には会社法上の規制があります。
株主との合意があれば自由に自社株を買い取れるというわけではなく、取得方法に応じた手続きが必要です。
さらに、自社株買いを実施したからといって、必ず株価が上昇するとは限りません。
企業価値や業績、財務状況、市場環境などによって株価は変動するため、自己株式の取得だけで企業価値が高まるとは限りません。
自己株式の取得方法
会社が自己株式を取得する方法には複数の種類があります。
代表的な方法として、市場取引による取得があります。
上場会社の場合、証券取引所で自社株を購入する方法です。
また、特定の株主から取得する方法もあります。
この場合、特定の株主が保有する株式を会社が買い取ることになります。
その他にも、公開買付けによって自己株式を取得する方法などがあります。
どの方法を利用するかによって必要な会社法上の手続きが異なるため、自己株式を取得する際には事前に適切な手続きを確認する必要があります。
自己株式を取得する際の会社法上のルール
株式会社が自己株式を取得する場合、会社法による規制を受けます。
自己株式の取得は、株主への財産の払い戻しという側面を持つため、会社財産を不当に流出させないためのルールが設けられています。
原則として、自己株式を取得するには一定の手続きを行い、取得できる財源についても制限があります。
特に重要なのが「分配可能額」です。
会社が自己株式を取得する際には、会社法上の財源規制を確認する必要があります。
そのため、自己株式を取得したい場合は、単純に会社の預金残高だけを見て判断するのではなく、分配可能額や財務状況を確認することが重要です。
自己株式には議決権がない
自己株式の大きな特徴として、会社が保有している間は議決権を行使できないことが挙げられます。
株主総会における議決権は株主が持つ権利ですが、会社自身が保有する株式について会社が議決権を行使することはできません。
そのため、自己株式の取得によって、実質的に議決権を持つ株主の構成が変化する可能性があります。
特に非上場会社では、株主構成が経営権に直結することが多いため、自己株式の取得が会社支配に与える影響についても考える必要があります。
自己株式と消却の違い
自己株式の「取得」と「消却」は混同されやすいものの、意味は異なります。
取得とは、会社が発行済みの自社株式を株主から買い戻して保有することです。
一方、消却とは、会社が保有している自己株式を消滅させることです。
たとえば、会社が100株の自己株式を取得した場合、その100株を会社が保有し続けることもできます。
一方、その100株を消却すれば、株式そのものが消滅します。
自己株式を取得しただけでは、発行済株式総数そのものが直ちに減少するわけではありません。
将来的に第三者への処分などに利用する可能性がある場合は、自己株式として保有しておくことがあります。
自己株式と株主還元
自己株式の取得は、配当と並ぶ株主還元策の一つとして考えられることがあります。
配当の場合、会社が保有する現金を株主へ分配します。
一方、自己株式取得では、会社が株主から株式を買い取ることで株主へ資金を移転します。
そのため、自己株式取得と配当はどちらも株主への利益還元につながる可能性がありますが、仕組みは異なります。
会社側からすると、自己株式の取得は資本政策の一環として柔軟に活用できる場合があります。
ただし、自己株式取得を実施する場合は、単に株主還元だけを見るのではなく、設備投資や事業成長のための資金を確保できるかどうかも考慮する必要があります。
自己株式とM&Aの関係
自己株式はM&Aや組織再編でも活用されることがあります。
会社が自己株式を保有していれば、一定の場面で対価として利用できる可能性があります。
たとえば、株式を対価とするM&Aなどでは、自己株式を活用することで新たに株式を発行せずに対応できる場合があります。
また、事業承継において、特定の株主から株式を買い取る際に自己株式取得を利用するケースもあります。
特に非上場会社では、株主が分散していると経営上の意思決定が難しくなることがあります。
そのため、自己株式を活用して株主構成を整理することが、事業承継や経営権の安定につながる場合があります。
非上場会社でも自己株式を取得できる
自己株式は上場企業だけの制度ではありません。
非上場会社でも一定の条件のもとで自己株式を取得できます。
非上場会社の場合、市場で自社株を買い戻すことができないため、特定の株主から取得するなど、個別の手続きが必要になるケースがあります。
特に中小企業では、事業承継や相続によって株式が分散することがあります。
株式が親族や元経営者などに分散している場合、会社が自己株式を取得することで株主構成を整理できる可能性があります。
ただし、非上場株式には市場価格が存在しないことが多いため、株式の価格をどのように決めるかが重要な問題になります。
自己株式の価格を決める際の注意点
自己株式を取得する際には、取得価格についても注意が必要です。
上場会社であれば市場価格を参考にできますが、非上場会社の場合は客観的な市場価格が存在しないことがあります。
その場合、会社の純資産、利益、将来の収益力、類似会社の株価など、さまざまな要素を考慮して株式価値を算定します。
特に特定の株主から自己株式を取得する場合、取得価格が適正かどうかを慎重に検討する必要があります。
価格設定が不適切だと、他の株主との公平性や税務上の問題につながる可能性もあります。
そのため、非上場会社が自己株式を取得する場合は、税理士や弁護士などの専門家に相談しながら進めることが重要です。
自己株式の会計上の扱い
自己株式は、通常の資産とは異なる扱いになります。
自己株式を取得した場合、会計上は純資産の部から控除する形で表示されます。
これは、自己株式が会社にとって外部から回収した自社の持分にあたり、一般的な資産とは性質が異なるためです。
自己株式を取得すると会社から現金が流出するため、取得前と比べて純資産に影響が生じます。
自己株式の取得、処分、消却などを行う場合には、それぞれ会計処理が異なるため、実際の取引では会計基準や会社の状況に応じた処理が必要です。
自己株式取得と資金繰り
自己株式を取得する際には、資金繰りへの影響も考慮しなければなりません。
自己株式を取得するには、原則として会社から株主へ対価を支払います。
そのため、取得額が大きくなるほど会社の現預金が減少します。
業績が好調で十分なキャッシュがある会社であれば問題になりにくい場合もありますが、今後大型の設備投資や運転資金が必要になる会社では慎重な判断が必要です。
特に、借入金の返済や仕入れ、人件費などの支払いがある場合は、自己株式取得によって必要な運転資金が不足しないようにする必要があります。
株主還元と会社の成長投資のバランスを考えることが重要です。
自己株式取得とファクタリングは目的が異なる
自己株式取得とファクタリングは、どちらも企業の資金に関係する取引ですが、目的や仕組みは大きく異なります。
自己株式取得は、会社が株主から自社株を買い戻す資本政策です。
一方、ファクタリングは、企業が保有する売掛債権をファクタリング会社などへ譲渡して資金化する方法です。
つまり、自己株式取得では会社から資金が流出するのに対し、ファクタリングでは売掛債権を活用して会社が資金を調達します。
たとえば、自己株式を取得するために多額の資金を支出した結果、運転資金が不足するような場合には、資金繰り全体を見直す必要があります。
ファクタリングは、そのような運転資金の確保を検討する際の選択肢の一つとなります。
ただし、ファクタリングには手数料が発生するため、利用前に手数料や契約条件を十分に確認することが大切です。
自己株式を取得する際の注意点
自己株式を取得する場合は、会社法上の手続きだけでなく、税務や会計、資金繰りなども含めて検討する必要があります。
特に注意したいのが、取得価格です。
非上場会社では株価が明確でないため、適正な価格を算定する必要があります。
また、自己株式取得によって会社の現金が減少することも忘れてはいけません。
株主への利益還元を優先しすぎると、将来の設備投資や事業拡大に必要な資金が不足する可能性があります。
さらに、自己株式の取得方法によっては株主総会の決議など、所定の手続きが必要になります。
実際に自己株式を取得する際には、会社の規模や株主構成、取得方法などを踏まえて専門家に確認することが重要です。
自己株式は資本政策の重要な選択肢
自己株式は、単純に「自社の株を買い戻す」というだけの制度ではありません。
株主還元、株主構成の整理、事業承継、M&A、資本効率の改善など、さまざまな目的で利用できる重要な資本政策です。
特に非上場企業では、株式が親族や元役員などに分散しているケースもあり、自己株式取得を活用することで経営権を整理できる可能性があります。
一方、自己株式の取得には会社から多額の資金が流出する可能性があります。
そのため、取得後も十分な運転資金を確保できるのか、今後の設備投資や借入金返済に問題がないのかなどを事前に確認することが重要です。
自己株式取得を単独で考えるのではなく、配当、設備投資、借入、M&Aなどを含めた資本政策全体の中で判断する必要があります。
まとめ
自己株式とは、株式会社が発行済みの自社株式を株主から取得して保有している株式のことです。会社が自社株を買い戻す行為は「自社株買い」と呼ばれ、自社株買いによって取得した株式が自己株式となります。
自己株式を取得する主な目的には、株主への利益還元、株主構成の整理、資本効率の改善、M&Aや事業承継への活用などがあります。
一方で、自己株式の取得には会社から資金が流出するというデメリットがあります。取得額が大きい場合には、運転資金や設備投資資金などが不足しないよう、資金繰りを慎重に検討する必要があります。
また、自己株式の取得には会社法上の規制があり、取得方法に応じた決議や手続き、財源規制などを確認することが必要です。
取得した自己株式は、そのまま保有することも、一定の手続きを経て消却することもできます。自己株式の「取得」と「消却」は別の手続きであるため、それぞれの意味を理解しておくことが大切です。
自己株式は、上場企業だけでなく非上場企業でも活用できます。特に非上場企業では、事業承継や株主構成の整理などに役立つ場合があります。
ただし、取得価格の決定や税務・会計上の処理など、専門的な判断が必要になる場面も多いため、実際に自己株式を取得する際には、会社法や税務に詳しい専門家へ相談しながら進めることが重要です。
